奈良の町が少しずつ初夏の気配を帯びてきた頃、私は再び「玄」の暖簾をくぐりました。ここでは、料理がただの食事ではなく、「季節の物語」として目の前に現れます。
素材の声に耳を傾けて
「玄」の料理は、季節の恵みを一番美味しい瞬間にいただけるよう、素材選びから調理法まで緻密に計算されています。地元奈良や近隣の農家・漁港から届く新鮮な食材は、料理長の確かな目と技で昇華され、まるで旬そのものをいただいているかのよう。
たとえば、春の終わりには若竹と山菜を使った土鍋ごはん。初夏には鱧(はも)や鮎、梅肉のアクセントが光る冷菜など、目にも舌にも心地よい余韻が広がります。
五感で味わう時間
盛り付け、香り、器、食感——「玄」の料理は五感すべてに訴えかけます。特に印象的だったのは、炭火で香ばしく焼かれた魚の香りがふわりと鼻をくすぐる瞬間。そのひとときだけで、旅の疲れもふっと消えていきました。
日々の喧騒を忘れて
街の中心部にありながら、店内はまるで別世界。柔らかな照明と静かな時間が流れ、会話すら自然と穏やかになります。ここでは時間がゆっくりと進み、日常を忘れて心から料理と向き合うことができます。